「片麻痺(かたまひ)の方の食事介助はむずかしい」と感じたことはありませんか?片麻痺の方の食事介助でよくある疑問を詳しく解説!合併しやすい症状、具体的な対応方法、口腔ケアのコツを紹介します。
【目次】
1.片麻痺って何だろう?
2.片麻痺の人に合併しやすい症状
3.食事介助~5つの対応方法~
4.片麻痺と摂食・嚥下~よくある3つの疑問~
5.片麻痺がある人の口腔ケア
6.まとめ
片麻痺とは
片麻痺(かたまひ)は、身体の左右どちらか一方に麻痺の症状がある状態です。身体だけではなく顔面や口の中も麻痺がおこります。
麻痺には「運動麻痺」だけではなく「感覚麻痺」もあります。片麻痺とは違いますが、例えば、「歯科医院での麻酔後に、触っても感じない」ときの感覚がイメージとして分かりやすいかもしれません。
人間の脳は右脳・左脳に分かれていて、それぞれ反対側の身体の動きをコントロールしています。ざっくり言うと、右の脳は左の体を、左の脳は右の体を動かすのです。ダメージを受けた脳とは反対側の体に症状が表れます。
片麻痺の人に起こりやすい合併症状
左脳と右脳では果たす役割が違うので、表れやすい症状の頻度に差があります。「絶対に右にしか表れない」などというわけではありませんが、一つの目安として覚えておくとよいでしょう。
摂食・嚥下にかかわる代表的な症状を中心に紹介します。
1.右片麻痺に起こりやすい合併症状
【失行症】
使い方は覚えているのに、日常の簡単な行為ができなくなる症状
例)箸をスプーンの持ち方をしたり、うまく口まで持っていけない
【失語症】
口や喉に麻痺が無いのに、言葉が出にくくなったり、記憶力や聴力には問題がないのに言葉の意味が分からなくなってしまう症状
例)気をつけて欲しいことを言われても、理解しにくい。意思を伝えられない
2.左片麻痺に起こりやすい合併症状
【左半側空間無視】
視力には問題がないのに、視野の片側が認識しにくくなる症状
例)左隣に座った介助者や口に近づくスプーンに気が付かない。お盆またはお皿にあるものの左側を手付かずで残す。本人は気が付かない。声がけすると気がつく。
3.左右麻痺どちらでも合併しやすい
【注意の障害】
ぼーっとする・集中力が続かない・周りに注意を向けることができない
例)歩いている人、他の人の話し声に注意が向いてしまい、食事の手が止まったまま。ぼんやりしていて、頻繁に声がけしないと手が止まってしまう
【構音障害】
唇・舌・喉に麻痺があり、呂律が不明瞭。嚥下障害の原因になる。
【片麻痺食事介助】5つの対応方法
麻痺で嚥下障害がある場合は、病院や専門機関からの嚥下評価や食事介助の方法などの情報提供書があれば参考にしながらすすめましょう。症状は、一人ひとり違います。
注意しながら食事介助をしているけれど繰り返すむせがある、誤嚥性肺炎を疑う兆候があるなどの場合は専門の医師や嚥下の評価ができる専門家に相談を視野に入れましょう。
基本の食事介助を知りたい方はレクシルメディア「高齢者の食事介助」で読むことができます。
ここでは、片麻痺の方に食事介助をする場合の5つのポイントを説明していきます。
1.片手が使えない・利き手が使えない
・皿の下にゴムマットなど滑り止めを敷く
・片側の皿が深くなっている角度付き皿を使う
・柄が曲がるスプーンを使う
・スプーンやフォークは柄が太いものを使う
・なるべく自分でできるところまで食べ、出来ない部分をサポートする
2.体が左右に傾きがち
麻痺側にクッションや枕を入れる
3.口や顔に麻痺がある
・麻痺側に食べ物が残る場合は誤嚥窒息になりやすいので食事中・食後に確認する
・健側の口に食物を運ぶ
4.注意が片方に偏る
・配膳のとき、認識できている側に皿を置く
・残っていたら声掛けして見える側に皿を置き直す
5.集中力が続かない
テレビを消す・静かな音楽にする・集中しやすい席に移動する
片麻痺と摂食・嚥下~よくある3つの疑問~
1.食事介助は健側から?
諸説ありますが、健側(けんそく:麻痺していないほう)の口内に食べ物を置くと、どこに食べ物があるのか認識できるので咀嚼しやすく口腔内に残りにくいでしょう。喉が麻痺している場合は、顔を麻痺側に向けると通過が良くなると言われています。
麻痺側には半側空間無視が表れると紹介しましたが、認識できるほうから食事介助することも大切です。
咀嚼・嚥下と空間認識の面から、健側から介助するのが良いでしょう。もし、左右どちらから介助しても食べにくさに影響が無い様子であれば、基本的には介助者のスプーン操作がしやすい利き手側から介助します。
2.側臥位にする必要は?
ベッドで食事をする場合、健側を下にした側臥位(そくがい)にしましょう。重力によって食べ物が健側の喉に集まるため嚥下しやすくなります。そして、麻痺側に首を向けると、健側の喉が拡がり食べ物が通りやすくなります。この方法は「一側嚥下法(いっそくえんげほう)」と言われてます。
3.麻痺の観察項目は?
顔や口をうごかしていない状態で顔や舌をみると簡単なチェックができます。
・左右どちらか一方が、口角が下がっている
・片側から唾液が流れ出てしまう
・口の片側に、食物や薬が残りがち
・舌を出すと左右どちらかに曲がっている
片麻痺がある人の口腔ケア
歯ブラシなどを動かすことによって、口腔内の刺激にもなりリハビリ効果もあります。
・歯ブラシは上を向くとむせやすいので、軽く顎をひいておこなう
・自分でできるところまで磨き、出来ない部分をサポートする
・電動歯ブラシ、持ち手の太い歯ブラシ、持ちやすいコップなどを使うのもサポートのひとつ
・鏡をみて、どこを磨いてるか、食べものが残っていないかを確認してもらう
・足の裏は床に接地しているようにする
まとめ
片麻痺では身体の他にも顔や口にも麻痺が表れ、合併症として半側空間無視や注意力障害などもあります。「片麻痺」といっても症状や程度は個人差があるので、皿やスプーンなど自助具の選定や集中しやすい席、介助量を一人一人の状態に合わせるのがポイントです。片麻痺では、片側の口の中に食べ物が残りやすく口腔ケアをしっかり行えるようにしていきましょう。
【参考資料】
脳科学辞典(2016)『優位半球・劣位半球』https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%84%AA%E4%BD%8D%E5%8D%8A%E7%90%83%E3%83%BB%E5%8A%A3%E4%BD%8D%E5%8D%8A%E7%90%83
(2020)『片麻痺とは?主な原因と効果的なリハビリ方法を紹介』https://medical.francebed.co.jp/special/column/32_hemiplegia.php
(2020)『片麻痺の食事介助』https://rehaplan.jp/articles/223#%E3%80%8C%E7%89%87%E9%BA%BB%E7%97%BA%E3%80%8D%E3%81%AE%E9%A3%9F%E4%BA%8B%E4%BB%8B%E5%8A%A9
(2019)『片麻痺がある患者は健側を下にした体位にするのはなぜ?』https://www.kango-roo.com/learning/5263/(2019)『こんなときはどうする?ご高齢者の症状に合わせた口腔ケア』https://www.azumien.jp/contents/method/00051.html
大宿茂(2014) 『摂食・嚥下障害のフィジカルアセスメント』日総研
日本嚥下障害臨床研究会(2002)『嚥下障害の臨床』医歯薬出版
井上登太(2019)『誤嚥性肺炎ケア』株式会社gene