介護施設などで働いていると、せん妄状態の利用者さんや患者さんがいらっしゃると思います。
せん妄の症状は多岐にわたるため、対応に悩むこともありますよね。
この記事ではせん妄についての基礎知識を身につけ、せん妄予防に体操が効果的なのかどうかなどについて解説をしていきたいと思います。
せん妄とは
せん妄とは、時間や場所がわからなくなる(見当識障害)ことから始まることが多く、注意力・思考力・集中力などの低下に続き、さまざまな症状を引き起こします。
また、アメリカ精神医学会編「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)」ではせん妄を以下のように定義をしています。
せん妄は「身体疾患や中毒によって惹起される急性で変動する意識障害・認知機能障害」とすることができる。
としています。
せん妄と認知症は合併して生じることもありますが、実際にはせん妄と認知症は異なる症候群です。
せん妄は数時間から数日など突発的に生じることが多いですが、認知症では徐々に進行していき、見当識障害や記憶障害などが出現します。
MSDマニュアル家庭版では、
せん妄では主に注意力が障害されます。
認知症では主に記憶力が障害されます。と記載されています。
また、せん妄は1日のうちで症状の変化に差があるのも、認知症とは異なっている点です。
しかし、せん妄と認知症が混在している場合には鑑別が困難なことが多いとされています。
せん妄の症状
せん妄の症状は多岐にわたりますが、以下の症状が出現します。
1.注意障害
注意散漫になり、会話に集中できない、行動や言葉にまとまりがない。
2.記憶障害
昔のことは覚えているが、最近の話はすぐに忘れてしまう。
3.見当識障害
日時や場所がわからなくなる。
4.知覚障害
実際にはないものが見える幻視や実際にしない音が聞こえる幻聴、実在するものを異なるものと認識する錯視などがあります。
5.精神運動障害
・亢進:興奮・多弁・多動など
・抑制:自発的な言動がない、刺激に反応しない
6.情動障害
不安、恐怖、抑うつ、怒り、多幸、無欲など
7.睡眠覚醒周期障害
不眠、断眠、昼夜逆転
特に睡眠中に落ち着かず昼夜逆転してしまうことはよくあります。
せん妄状態では、その人の人格や気分を変化させてしまうことがあります。
物静かで内向的なせん妄状態もあるため、他者から気づかれないことや反対に、イライラしていたり、口吻状態で慌ただしく動き回る場合もあります。
病院で働いていると薬剤性によるせん妄症状では内向的な状態になることを多く経験します。
せん妄の原因
せん妄の原因も症状と同様、多岐にわたります。
脳疾患(認知症や脳卒中、パーキンソン病など)によるものや加齢、アルコール中毒、薬剤の使用や入院・手術による影響などがあります。
加齢に伴う脱水や尿路感染、インフルエンザや睡眠不足など、些細な要因がせん妄を引き起こす引き金となることもあります、
また、病院で働いていると、手術後にせん妄状態になる高齢者の方も多く経験します。
せん妄の種類
せん妄にはいくつかの種類があり、分類されています。
分類は以下の3つとなっています。
- 過活動型せん妄
運動活動性の量的増加、活動性の制御喪失、不穏、徘徊 - 低活動型せん妄
活動量・行動速度の低下、状況認識の低下、会話量の低下、無気力、覚醒低下・引きこもり - 混合性せん妄
上記2つの症状が1日の中でも混合している状態。
せん妄予防に体操が効果的か?
せん妄が生じないように予防することは大切ですが、果たして体操は効果的なのでしょうか?
さまざまな文献を探してみましたが、せん妄の予防に体操が効果的である。と結論づけている論文はまだありませんでした。
原因にもよりますが、予防改善には早期からのリハビリテーションが必要とされています。
ここからはせん妄に対するリハビリテーション位について少し解説をしていきます。
結構マニアックな部分になってしまいますが、介護施設などで働いている方々も知っておいて損はない知識かと思います。
せん妄に対してはリハビリテーションが有効
集中治療室などでの領域では早期からのリハビリテーションが注目されています。
特に早期離床や早期からの運動(early mobility and exercise,early mobilization)は集中治療領域では定着しつつあります。
早期運動はせん妄の予防に対して行うべきである(エビデンスレベル1B)とされています。
early mobilization(早期運動)とは「発症かや手術後早期から行われる運動や理学療法士による理学療法」とされています。
具体的には、ベット上での関節運動や自動介助運動、自動運動、ベット上座位、立位、歩行へと繋がっていきます。
early mobilization (早期運動)は発症や手術後から2〜5日以内に行われる身体活動と定義されています。
これは不動による筋の変性や筋量の減少が、疾患の新規発症、手術または急性増悪から48時間以内に始まり、2~3週間のうちに最大になるとされていることから、2〜5日以内と言われています。
その他のせん妄への対応
リハビリテーションは早期の場合に行いますが、介護施設などの場合にはどうすればいいのでしょうか?
まずはお医者さんに相談が第一選択だと思います。
せん妄になる原因はたくさんありますが、それぞれ異なる対応が必要になってくると思います。
薬剤によって生じているのであれば、薬剤変更を、
夜間眠ることができなくて、せん妄が生じているのであれば、眠剤の投与を、
加齢に伴うもの、施設入所に伴うものなどさまざまな要因があるため、対応方法は一つだけではありません。
介護施設に入所されている利用者さんの夜間の状況などを一番把握しているのは、介護職員のみなさんです。
昼夜問わず、せん妄を疑うような状況があれば、看護師・お医者さんに報告するのがベストかと思います。
まとめ
この記事ではせん妄の基礎知識についてとせん妄の予防について解説を行いました。
かなりマニアックな記事ですが、介護施設で働いている方にとっては他人事とではない部分だと思います。
利用者さんの状況を一番把握しているのは、一番近くにいる介護職員です。
ぜひ利用者さんの変化を見逃さずにしていき、わからない・不安だな、と思うようなことがあれば看護師・お医者さんに報告しておきましょう。
参考文献
集中治療における早期リハビリテーション〜根拠に基づくエキスパートコンセンサス〜