介護施設などでは頻繁に体操などを行う時間がありますが、
「利用者さんの認知症予防のために行う体操はどういったものがおすすめなのか?」
「認知症の方に対する体操ってどういった効果があるのか?」
などといったことを一度は考えたことがあるのではないでしょうか?
この記事では理学療法士として病院で勤務している筆者が、認知症予防におすすめの体操とその効果について解説をしていきたいと思います。
認知症予防にもっともおすすめなのは二重課題での体操です。
二重課題の体操でもっとも有名なのは「コグニサイズ」と呼ばれるものです。
本文ではコグニサイズの詳しい内容もご紹介していきますので、ぜひ参考にして見てください。
認知症予防におすすめの体操
認知症予防におすすめの体操はなんといっても二重課題で行う体操です。
二重課題というのは、体を動かしながら(=運動課題)頭を使う(=認知課題)など複数のことを同時に行う課題のことです。
歩きながら四則演算をする、歩きながらしりとりをする、などさまざまなものがあります。
二重課題の体操でもっとも有名なのがコグニサイズと呼ばれるものです。
次からはコグニサイズについてご紹介していきます。
コグニサイズとは?
コグニサイズとは国立長寿医療研究センターが開発した、運動と認知課題を組み合わせた運動のことです。
コグニサイズが生まれた背景には、今後の日本で認知症患者が激増することが予想されているためです。
コグニサイズが作成されるころ、2012年には認知症者が全国で462万人と推計されていました。
それが2025年には700万人を超えるとされており、わずか10年で認知症者は1.5倍にも跳ね上がる試算がされています。
このような背景から、認知症者を予防することに作られたのが「コグニサイズ」です。
コグニサイズの方法
コグニサイズの方法は簡単です。
1. 運動課題は全身を使った中強度程度の負荷で、脈拍数が上昇するもの
2. 運動と同時に行う認知課題は、運動の方法や認知課題をたまに間違えて答えてしまう程度の問題
上記の2種類を満たすものとされています。
中強度程度の負荷というものは、軽く息が弾む程度の運動を指します。
認知症は加齢に伴って誰しもが生じうる可能性を秘めています。
コグニサイズは認知症の発症を遅らせることを目的として作られており、完全に認知症を予防することは難しいです。
しかし脳の活動を活発にする機会を作るということは、脳にとって良い影響を与えます。
そのため、認知課題がノーミスでクリアできてしまうと、脳に対しては負荷がかかっていない(=簡単すぎる問題)といえますので、難易度調整を上手に行っていきましょう。
→コグニサイズの詳細を確認
認知症に対する運動の効果
認知症者に対する運動の効果についてはいくつもの研究が報告されています。
概ね良い効果を期待できるものが多いように感じます。
ここからは認知症に対する運動の効果についてご紹介していきます。
運動は認知症発症数を減少させるか1)
これまで身体活動及び運動習慣がアルツハイマー病や脳血管性認知症の発症数を減少させるかに関する研究が多くなされてきました。
少し古いですが、1996年から2007年までに報告された文献では、多くの文献で身体活動および運動が認知機能低下および認知症の発症に対して防御的な効果があることを報告しています。
歩行量が認知症予防に効果的か2)
またイタリアの研究では、よく歩く群では脳血管性認知症の発症リスクが有意に少なくなったが、アルツハイマー型認知症では、明らかな差は見られず、認知症のタイプにより運動の効果に差があることが示されています。
運動が認知機能を改善するか3)
別の研究では主観的および客観的に軽度の認知障害を呈する高齢者において自宅で運動プログラムを実施させたところ、認知機能が軽度に改善したことを報告しています。
その後の運動プログラム中止12ヶ月間は効果が持続したと合わせて報告をしています。
認知症予防に対する運動の時間はどの程度行うべきか
65歳から79歳の地域在住高齢者を対象とした研究4)では、中年期に週2回以上の身体活動を行うことは、認知症発症のリスクを有意に減少させ、アルツハイマー病のリスクも有意に減少させると報告しています。
またシアトルでの報告5)では、65歳以上の地域高齢者を対象とした場合、週3回以上の運動をした群では、そうでない群に比べて認知症の発症が少ないことを報告しています。
この二つの報告だけで決めるのはあまり良くないですが、週2-3回以上の運動を行うことで、認知症予防の効果がある可能性が考えられます。
厚労省が出している資料では、高齢者は下肢や体幹の筋力トレーニングを週2回程度、レクリエーション活動や軽スポーツを週3回程度行うことをすすめています。
介護職員の方は一度目を通しておくと、認知症予防に関する運動の効果について学ぶことができます。
また、国立長寿医療研究センターの「認知症予防マニュアル」に目を通すのもおすすめです。
日本語で書かれているので、運動が認知症予防などにもたらす効果などについて、より理解を深めることができます。
まとめ
この記事では認知症予防におすすめの体操とその効果について解説を行いました。
コグニサイズは簡単に行うことができますし、場所も取りません。
国立長寿医療研究センターがオンライン上で見れるパンフレットも用意していますので、そちらも参考にコグニサイズを行うと良いかと思います。
また、運動がもたらす認知症予防の効果に関しては、あくまでもこの記事は参考程度にしていただき、参考文献を記載しているので、そちらに一度目を通していただけると良いかと思います。
厚労省のリンク先や認知症予防マニュアルのリンク先も載せているので、そちらにも目を通してみてください。
参考文献
1)Rolland Y, van Kan GA, Vellas B : Physical activity and Alzheimer’s disease : from prevention to therapeutic perspectives. J Am Dir Assoc 2008 ; 9 : 390.405
2)Ravaglia G, Forti P, Lucicesare A, Pisacane N, Rietti E, Bianchin M, Dalmonte E : Physical activity and dementia risk in the elderly. Neurology 2008 ; 70 : 1786.1794
3)Lautenschlager NT, Cox KL, Flicker L, Foster JK, van Bockxmeer FM, Xiso J, Greenop KR, Almeida OP : Ef- fect of physical activity on cognitive function in older adults at risk for Alzheimer disease. JAMA 2008 ; 300 : 1027.1037
4) Rovio S, Kåreholt I, Helkata E, Vitanen M, Winblad B, Tuomilehto J, Soininen H, Nissinen A, Kivipelto M : Lei- sure–time physical activity at midlife and the risk of de- mentia and Alzheimer’s disease. Lancet Neurol 2005 ; 4 : 705.711
5) Larson EB, Wang L, Bowen JD, McCormick WC, Teri L : Exercise is associated with reduced risk for incident de- mentia among persons 65 years of age and older. Ann In- tern Med 2006 ; 144(2): 73.81