介護施設で働いていると利用者さんと体操をする機会がありますよね。
適度な体操や運動は認知症の方でも、そうでない方にとっても健康にいいです。
今回は認知症の方に対する体操の効果や認知症の方へのリハビリになる簡単な体操を
理学療法士である筆者がご紹介していきたいと思います。
知っておきたい認知症の方に対する体操の3つの効果
理学療法士が行う体操は「運動療法」と言います。
今回は介護職員でも行うことができるリハビリとしての体操について説明をしていきます。
あまり聞き慣れないかもしれませんが、「Exercise is Medicine」という言葉があります。
これは「運動は薬です」ということを意味しています。
運動は厳しい・辛いものではなく、健康にとってとても大切なものです。
そんな運動や体操の効果をここからはご紹介していきたいと思います。
体操の効果1.脳を活性化する
体操を行うことで、全身の血液の血流が改善します。それに伴い、脳への血流量も増加、酸素供給も増加します。
脳の活性化にはこれまで使っていなかった機能が活性化されたり、
今までも使っていたけど、より効率よく使えるようになるなど、さまざまなものがあります。
体操の負荷量によって変化する部分などもありますが、
基本的には体操を行うことは脳にとってメリットしかありません。
また、体操を行うことで記憶力が向上したり、アルツハイマー型認知症が改善することなどが報告されています。
体操の効果2.身体機能の維持
体操を行うことで、身体機能の維持を図ることができます。
体操(=運動療法)には筋力増強や関節可動域改善、筋持久力の改善などさまざまな内容があります。
いずれも加齢に伴い機能が低下していきますが、体操を行うことで身体維持をすることができます。
身体機能が低下していくことで、一人では起き上がれない、起き上がれるけど、ベットから椅子に移れない、
トイレまで歩いて行けない、など、さまざまな機能障害が生じてしまいます。
そうならないためにも適度な体操は必要と言えますし、適度な体操を行うことで予防することもできます。
体操の効果3.生活リズムが整う
体操を行うことで、夜間眠れない方も眠れるようになることがあります。
これは、日中に体操を行うために起きていることで、生活リズムが整うからです。
夜間は介護職員の数も少なく、一人で対応できる利用者さんの数は限られてしまいます。
そんな時には、日中に体操などを行い、しっかりと起きていてもらうことが大切になってきます。
体操は生活リズムを整えるためにも効果的なんです。
認知症の方に対するリハビリになる体操4選
ここからは認知症の方に対するリハビリになる体操をご紹介していきたいと思います。
どれも簡単にできる内容なので、明日からの業務に使ってみてください。
リハビリになる体操1.座ってラジオ体操
一つ目は「座ってラジオ体操」です。ラジオ体操は立って行うことが一般的ですが、
NHKの放送やyoutubeにはラジオ体操を座って行う方法が紹介されています。
座って行うことで、転倒リスクを最小限にすることができるため、
認知症の方に対するリハビリとしての体操としてはもってこいです。
また、座ったままでもしっかりと体操を行うことで、軽く息があがる程度の運動をすることができます。
リハビリになる体操2.コグニサイズ
二つ目は「コグニサイズ」と呼ばれる体操です。
コグニサイズは国立長寿医療研究センターが開発をした認知症予防体操です。
体操となる運動の課題と計算やしりとりなどの認知課題の両方を同時に行いながら運動するのが
コグニサイズと呼ばれているものです。
体操だけではなく、認知課題を組みわせることで脳の機能を多く使うため、
認知症予防につながる可能性が報告されています。
足踏みをしながら計算するや、歩きながらしりとりをするなどが代表例です。
この時、計算やしりとりなどに夢中になって、転倒しないように気をつける必要があります。
リハビリになる体操3.パタカラ体操
3つは口周りの体操である「パタカラ体操」です。加齢に伴って低下するのは腕や足回りの筋肉だけではありません。
ご飯を食べる・言葉を発するなど口周りの筋肉も大切になります。
パタカラ体操はそういった口周りの筋肉をしっかり動かし、口周りの機能を維持・向上するための体操です。
やり方は簡単です。
大袈裟に口を動かすように、「パ・タ・カ・ラ」というだけです。
慣れてきたらなるべく早く繰り返すなど、口周りの筋肉をたくさん動かすようにしましょう。
腕や足回りの筋肉をしっかり鍛えていても、ご飯がしっかり食べれないと、筋肉はついてきません。
また、口や顔周りの筋肉は指先の筋肉と同じように、脳の領域が幅広いことが報告されています。
そのため、口や顔周りの筋肉を動かすことは、脳のたくさんの領域を使うことになるため、
より脳が活性化されることが期待できます。
リハビリになる体操4.一人ジャンケン
最後は「一人ジャンケン」です。
右手は勝ち、左手は負け、とルールを決め、左右の手を同時に出すジャンケンです。
例えば、右手を勝ちにする場合には、
右手=グー・左手=チョキ
右手=パー・左手=グー
などといったようにジャンケンをしていきます。
慣れてきたらスピードをあげたり、左右を入れ替えたりすることで難易度を高めることができます。
この体操は場所を取らないのでいつでもどこでもやることができます。
まとめ
今回は認知症の利用者さんでもリハビリになる簡単な体操をご紹介しました。
どれも簡単にできるのにリハビリにもなる体操なので、ぜひ明日からのお仕事で使ってみてください。
普段あまり動いていない認知症の利用者さんの場合には、車椅子に座っているだけでも
運動負荷になることもあります。まずは低い負荷から始めてみるのもおすすめです。
最後に歩行と認知症のリスクについてご説明をします。
歩行を多く行なっている人とそうでない人を比較した研究では、歩行を多く行なっている人の方が
認知症になるリスクが低下すると報告されています。
こちらの研究では1日の歩行距離が3km以上になると認知症発症の予防に効果があることが示唆された、
と報告されています。
リハビリになる体操を行うことも大切ですが、動ける利用者さんにはどんどん歩いてもらうことも
いいかもしれませんね。
参考文献
David A et al.Why Your Brain Needs Exercise – Scientific American.Scientific American.2020;332(1):26-31.
Robert D Abbott et al.Walking and dementia in physically capable elderly men. JAMA. 2004;22;292(12):1447-53.