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高齢者の食事介助~今すぐわかる4つの基本~

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高齢者の食事介助について解説します。加齢変化が嚥下(えんげ)に与える影響や、観察項目、介助方法などこれだけは知っておきたい基本のポイントを紹介!「食べたい気持ちを支えたい。でも自分がしている介助方法でいいの?」食事介助の注意点を知って、食べる喜びをサポートしていきましょう。

【目次】
1.高齢者がむせやすい理由
2.こんな兆候があったら要注意~観察項目~
3.食事介助~基本の方法~
4.栄養補給と安全のはざまで~意外と大切なポイント~
5.【まとめ】長く楽しんで食べられるように

高齢者がむせやすい理由

口から入れた食べ物を、飲み込むことを嚥下(えんげ)といいます。私たちは年齢を重ねると体にさまざまな変化がでてきます。高齢者は体の変化の一つとして「食べる」にまつわる困りごとが起こりやすいのが特徴です。

食べ物が誤って声帯を越えて気管に入ってしまうこと誤嚥(ごえん)といいます。食べ物を噛むことや飲み込みは、口や喉の筋肉の精巧な動きで成り立っています。それぞれが動くタイミングがしっかり合っていると、誤嚥せずに食べることができるのです。

認識力をはじめ、歩く力や姿勢を保てる力、呼吸など全身も嚥下機能を支えています。高齢者はいずれかに衰えがでやすく、嚥下の力にも影響がでてくるのです。

嚥下の加齢変化

●噛む力が弱くなる
●歯が少なくなる
●飲み込む力が弱くなる
●すぐに満腹になる、胃がもたれて食欲がわきにくい
●唾液の分泌が減る
●むせの勢いが弱くなる
●気管に入りかかっても、すぐにむせが起きない
●努力しないとごっくんができない
●食べることに集中できなくなる 
●ある日突然始まらずに、ゆっくり変化がみられるようになる

こんな兆候があったら要注意~観察項目~

食事介助の大変さ、難しさは個人差があり、日々の体調によっても違うところです。「マニュアルにしようとしてもうまくいかない」「この人のやり方が、あの人にはうまくいかなかった」ということも珍しいことではありません。
安全に介助したいとは思っていても、食事介助に不安を覚えることもあるでしょう。

食事介助で不安になるのは「この症状は危ないのか?」「どうしてこの症状が出ているのか?」が分かりにくいところにもあります。きとんと嚥下の仕組みを理解することも、原因がしっかり分かることも重要ですが、日々の食事介助で「危ない兆候がでていないか?」をキャッチできる視点もとても重要です。

日常の観察項目で、嚥下障害や誤嚥が疑われる兆候をご紹介します。一見、嚥下障害とは関係がないような症状も含まれるのがポイントです。

生活や食事場面の観察項目

●よく微熱や高熱を出す
●活気がない、姿勢がいつもより崩れやすい
●痰が増えた
●いつまでも噛んでいる
●嚙みにくいものは残すようになった
●飲み込みにくそう
●食事中や食事のあとに咳が多い
●食事の時間が長くなった
●食事中に疲れやすくなった
●残す量が増えた
●「のどに残る感じがする」など違和感を訴える
●体重が減った
●食事中や食事のあとに、痰が絡んだようなガラガラ声になる
●味が感じにくくなった、味の好みが変わった
●食べ始めると鼻水が増える
●鼻から食べたものがでてくる
●顔色が悪くなる、呼吸がしにくくなっている
※むせない誤嚥もあります

食事介助~基本の方法~

【食事前】

●姿勢が左右、前方に傾かず座れている
●椅子に座った時に、足の裏全体が床についている。
●スプーンは大きすぎず、噛んでしまっても壊れないものを使う
●うとうとしていたら、声掛けをしていく
●口腔乾燥には口腔ケアスポンジや濡らしたガーゼを水をしっかり切ってから頬の裏、舌の上をなでるようにマッサージする
●義歯がしっかりはまっている
●口腔内汚染や痰が付着していたら、口腔ケアをする

【食事中】

●一口の量は、1~2回で口の中のものを飲み込める量
●介助者は、食べる本人と同じ高さの目線にする
●スプーンを入れる角度は下方か水平。上からだと上を向いてしまいむせやすくなる
●スプーンを引き抜くのは水平。上に引き抜くと、上あごに付いて残りやすい
●話しかけすぎない。食べてる最中に、声を出そうとするとむせやすい。
●口に運ぶペースは、本人の丁度良い速さにする。ごっくんしたのを確認してからが一つの目安
●食事の時間は本人の疲労をみながら終わりにする。目安は30~40分が望ましい
●口に運ぶ食べ物が何かを伝え、気持ちの準備と楽しみにつながる
●うとうとしたら声掛けをする
●むせが軽ければ、呼吸が整うまで待って再開する
●食べる前は澄んだ声だったのに、食べ始めたら喉にたんが絡んだようなガラガラ声にないないか

【食事後】

●口の中に食べ物や飲み物、薬が残っていない
●すぐにベッドで横にならず、座っているか、ベッドの背もたれを上げた状態にしておく
●呼吸や顔色、その他の様子に変化は起きていないか

栄養補給と安全のはざまで~意外と大切なポイント~

脱水症や栄養をきちんと保てるように必要な量をとるのは大事です。しかし、実際は摂取しきれない日もあります。
同じ時間帯に何人かの食事介助をする場合や、さまざまな業務がある中での食事介助にかかる時間も気になるもの。
食事時間内に急いで完食を目指しすぎたり、長時間かけて無理に完食を目指し過ぎることにこだわらず、他に工夫できることはないか考えることも大切です。一人ではなくチームで考えられると心強いですね。

高齢者の食事介助をしていると、むせている場面に出会うのは珍しい事ではありません。むせをはじめ、息が荒くなってきた、何かいつもと違うと感じたら無理をせずに、このまま進めていいか考えるか、一人で判断に迷う場合は看護師や嚥下にかかわっているスタッフに一度相談できると良いでしょう。

【まとめ】長く楽しんで食べられるように

口から食べられる楽しみは、人にとって大きなものです。特に、高齢になり最後まで残るのが食べることへの希望です。家族にとっても、食べられている喜びを共有することは大きな意味を持ちます。

食べられる内容は変化していっても、口から食べるということは心と体の活力のもとです。同時に、口から食べて排泄するという一連の過程は、脳の活性化にも、内臓の働きや栄養を吸収する面からも大切な役割があります。

日々の体調の影響や、個人差の多い嚥下の状態は「このように食事介助したら誰でも必ずうまくいく」と簡単に言えるものではなく、正しい知識と経験が求められるものでもあります。「食べたい気持ちを支えたい。でも自分がしている介助方法でいいの?」と感じたら、まずは基本のポイントを振り返りましょう。

食事介助の方法や気を付けるポイントをおさえることが、安全にたべるコツにつながります。

安全な食事介助で、長く楽しんで食べられるようにしましょう。



参考資料
・2019年gene 井上登太『基礎から学び実践に活かす!最後までかかわりつづけるための誤嚥性肺炎ケア基礎知識』
・食事介助の正しい方法https://www.irs.jp/article/?p=440
・誤嚥窒息が起こりにくい基本の手順・コツを分かりやすく解説!https://www.kaigo-antenna.jp/kaigo-maruwakari/kaigo-technique/tec_005/detail-25/

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