嚥下障害の食事介助について紹介します。嚥下障害の原因と、片麻痺の食事介助方法を解説!嚥下障害の食事介助で気になる「むせたら誤嚥性肺炎になるの?」を分かりやすく解説します。
【目次】
1.嚥下障害3つの原因
2.食事介助の方法~片麻痺~
3.むせたら誤嚥性肺炎?
4.まとめ~嚥下障害でも食べる楽しみを~
嚥下障害の3つの原因
食べものの通り道に原因がある
食べたものは、口の中・のど・食道を通って胃に入ります。通り道のどこかに邪魔しているものがあって通れない、または必要な部分が欠けるとスムーズに嚥下ができなくなります。例えば、口や喉の腫瘍を手術で舌の一部を取り除いていたり、事故の外傷などです。これらを「器質的原因」といいます。
筋肉・神経に原因がある
介護の現場でみかける嚥下障害で多いのは、筋肉・神経に問題があるケースです。
口や喉を動かす神経や筋肉の働きに問題がある状態です。例えば脳梗塞や脳出血などによる麻痺(まひ)やパーキンソン病などが代表的。パーキンソン病であると脳からの指令が筋肉に上手く届かず、手足が震えて動きにくくなったり、手足が固まったようになったり、小刻みな歩き方になったりする「神経筋疾患」です。
これらを「機能的原因」といい、加齢変化や薬剤の副作用で飲み込むための筋力が弱くなる症状も含まれます。
心理的に原因がある
代表的なのはうつ病で、食欲が低下してしまう状態です。これを「心理的原因」といいます。
食事介助方法
基本の食事介助
●食事前に口の中が汚れていないか確認する
●食事に集中できる環境を整える
●足の裏全体がしっかり床や足台につくようにする
●何を口に入れるかわかるように声がけしながら介助する
●口に入れるペースはいそがない。飲み込んでから次の一口を入れる
●一口量を多くしない
●むせた時にはあわてない。しっかり咳をして息がととのったら食事を再開する
●介助者と利用者さんは同じ目線の高さ
●スプーンを上あごにこすりつけるように引き抜かない
●ときおり水分・またはとろみつき水分を飲み、口の中やのどに残った食べものを流してすっきりします
●食後に食べもの、薬が残っていないか口の中を確認する
片麻痺の食事介助
片麻痺(かたまひ)とは、身体の左右どちらかに麻痺の症状が見られる状態のことを言います。
椅子・車いすの場合
●麻痺しているほうに体が傾かないようにクッションなどで調整する
●どちら側から介助するかは、利用者さんの状態に合わせる
●口の中の片側に食べ物が残る場合は、残らない側に食べ物を入れる
ベッドで横になったまま食べる場合
●麻痺してない側を下向きにして側臥位(喉に重い麻痺がある場合)
●顔を麻痺してる側に向ける(喉に重い麻痺がある場合)
●ベッドの角度が低いときは、首がのけぞらないように注意する
●お尻がベッドの折り目にしっかり合うようにする
左の片麻痺に合併しやすい半側空間無視(はんそくくうかんむし)
脳卒中(脳梗塞や脳出血)で脳を損傷したあとに、視力の問題とは別に空間を認識しにくくなる症状のことを「半側空間無視」といいます。左右どちらもありますが、左麻痺で右側を認識できなるケースが多いようです。
【症状】
●右ばかり見ている(左から声をかけると左を向くが、つづかない)
●左によくぶつかる
●左側に置いてある食事に気がつかない
【食事介助のポイント】
●ご本人が見やすい側に座って食事介助をする
●自力摂取の場合は、認識しやすい側にお皿やスプーンなどを置く
むせたら誤嚥性肺炎?
嚥下障害がある利用者さんは誤嚥性肺炎のリスクが高まるといわれています。
高齢者が誤嚥性肺炎になると、弱くなった体力や食べる力の回復がゆっくりです。歩いたり食べる力が弱まったままのこともあります。もともと嚥下障害がある利用者さんは、さらに回復が遅れることがあります。そのため、誤嚥性肺炎の予防が重要なんですね。
誤嚥の有無を厳密に調べるには医師や言語聴覚士が、機器を用いてしらべる必要があります。ただし、日常の介護場面では難しいですよね。大事なのは食事介助での観察と、誤嚥しても誤嚥性肺炎につながりにくくするケアです。
【観察ポイントの例】
●食べ始めてからガラガラ痰が絡んだような声になってたら、気管の入り口に食べ物が乗ってる前兆。誤嚥につながる。放置せず咳払いで、声がもどったら食べ始める
●嚥下が弱まる状態のときは慎重に、またはお休みする
うとうと、注意散漫、体調が悪い、疲れている、息が切れている
●むせる。とくに、繰り返すむせこみは、誤嚥の危険性が高まる
【誤嚥予防の対策】
むせだけが誤嚥性肺炎の原因ではありません。口のなかのばい菌が何度も肺に入る、栄養不良で体力が落ちている、もともと疾患があるなどいくつもの要因があわさって誤嚥性肺炎を発症します。介護スタッフが取り入れやすい誤嚥予防の対策は、適切な食事介助と、口腔ケアです。誤嚥しても肺に入るばい菌を減らすことで肺炎予防につながる可能性があるといわれています。
口腔ケアは、唾液分泌・頬や口への刺激によって口腔機能の維持にもつながります。噛んで飲みこめること、誤嚥しかけても咳でしっかり吐き出せることも肺炎予防では大事なポイントです。口腔体操はもちろんのこと、お話しや歌う、「わっはっは」と笑うことも良いですね。首や肩を動かすことも大切です。
まとめ~嚥下障害でも食べる楽しみを~
高齢者は加齢変化と、脳卒中などの基礎疾患をもっていることが多く、嚥下障害をもちやすい特徴があります。嚥下障害をもった利用者さんの食事介助では、誤嚥の予防が大切といわれていて老健やデイサービス、在宅でもさまざまな工夫がされています。
誤嚥を予防するには、嚥下障害や誤嚥についての基本の知識をしっておくことが重要です。利用者さんの嚥下状態に合った食事介助を選ぶ参考になるでしょう。また、高齢者の既往で多い脳卒中。その後遺症のひとつである片麻痺での食事介助について知っておくと介助の幅が広がります。
介護スタッフ一人ではなく、チームで力を合わて嚥下障害でも長く食事を楽しみたい気持ちを支えていきましょう。
参考資料
嚥下障害とは?原因と対策を正しく理解して、毎日の食事を楽しく!https://www.irs.jp/article/?p=309
なるほど摂食嚥下障害https://www.nichiiko.co.jp/generic/swallow/swallow_index.php
片麻痺の食事介助は介助者の位置が重要https://www.minnanokaigo.com/channel/oral-care/no1/
半側空間無視ってどんな症状?http://kango.medi-care.co.jp/blog/168
ExpertNurse「あたながはじめる摂食・嚥下・口腔ケア」照林社 2011年11月号